ドリップコーヒーの科学 (その1)

当店では「美味しいドリップコーヒーの淹れ方」という、私が自作した小さなパンフレットが自由にお持ちできるよう置いてあります。数年前に作成したものですが思いのほか評判が良く、今でも多くの方に持ち帰っていただいています。おそらくドリップは皆さんにとって難解であり、その答えを模索している方が大勢いるんだろうと思います。

ドリップを難しいと感じる理由の一つは、抽出に関する情報、いわゆる「うんちく」があふれかえっているからだと思います。注ぐ際は”の”の字をかく、湯を細く注ぐ方が良いなど様々なコツが書籍などで紹介されているため、いったい何が正しいのか戸惑っている方もいるかもしれません。

私としては、様々な抽出のテクニックはコーヒーの醍醐味の一つではありますが、それらは科学的かつ具体的にその根拠が説明できるべきだと考えています。そこで今回はコーヒーを抽出する際に起こっている科学反応を理解し、正しいドリップの技術を明らかにしていきたいと思います。

【1. 湯の温度】
湯温はコーヒー豆に含まれる成分の移動に影響を与えることが、科学的に解明されており、湯温が高いほど成分が素早く粉から湯へ移動するため、味が濃くなると説明できます。

焙煎の浅いものは高温(90~95℃)、深いものは低温(85~90℃)というように温度帯を使い分けるテクニックがありますが、浅煎りの豆は高温でしか効率よく成分が溶け出さないのに対し、深煎りは低温でも十分に成分が取り出せることがその根拠の一つです。

【2. 粉の粒度】
挽いた粉が粗いか細かいかで、抽出する際の成分の移動速度が変化するため、風味に影響を与えます。細かく挽くと湯へ溶け出す成分の移動が速くなる、つまり味が濃くなります。

また、極めて細かく挽かれた微粉と呼ばれる粉末は風味に重さやえぐみ、いわゆる雑味の原因となるのでできる限り混入させないことが望ましいです。

【3. 水質】
ここで言う水質とは、美味しい水かどうかではなく、pHのことです。コーヒーは弱酸性の飲み物であるため、水のpHはコーヒーの酸味に影響を与えます。

日本の水道水は中性に近い場合が多いので風味に影響を与えませんが、市販のアルカリイオン水等を使うと酸味が中和され、酸がより穏やかになります。

【4. 粉と湯の接触時間】
コーヒーの粉は湯に接触している時間が長いほどその成分の移動量が増え、味が濃くなります。

例えば粉の量や湯温、抽出量などの条件を同じにして、1分間でさっと淹れた場合と3分間かけてじっくり淹れた場合では、誰もが分かるほどに風味に差が出ます。ぜひ一度お試しください。

次回は抽出に関連する科学的要因を理解した上で、簡単に実践できるドリップのコツを紹介していきたいと思います。

つづきはこちら
ドリップコーヒーの科学 (その2)