コーヒーの酸味を考える
当店の所在する岐阜は地域柄、酸味の少ないコーヒーをお求めになる方が多いようです。しかし近年では上質な酸味を有したスペシャルティコーヒーが一般に普及しており、その味わいを是非体験してもらいたいとも感じています。
今回は多くの方がなぜコーヒーの酸味を敬遠されるのか、昔のコーヒーの事情や酸味の科学を紐といて考察してみたいと思います。
【昔のコーヒーの事情について】
1900年代後期までは、酸に特徴があるコーヒー銘柄といえばモカコーヒーが第一にあげられました。モカコーヒーとはエチオピア産若しくはイエメン産のコーヒーを指しますが、エチオピア産は欠点豆の含有割合で格付けを行うのに対しイエメン産は格付けを行いません。つまり、欠点豆が大量に含まれていたり石や枝等の異物が入っていても、当然のように日本で流通するわけです。
モカコーヒーはハンドピック(欠点豆除去作業)がキモになります。念入りにハンドピックを行えば、モカコーヒーも個性的な味わいのコーヒーとして受け入れられるのですが、当時の焙煎業者が皆真面目に行っていた保証は無く、欠点豆だらけの不快な酸を持つコーヒーも多く出回っていたと考えられます。
我々が風味の鑑定を行う場合、不快な酸っぱい酸味を「サワー」、フルーティーな甘みを伴う良質な酸味を「アシディティ」と区別します。上記のような欠点豆由来の酸はサワーに当たりますが、それを実際に味わった方、味わってなくとも伝聞し酸に悪いイメージを持っている方が酸の強いコーヒーを控える傾向にあるのかもしれません。
【酸味の科学について】
前回の「コーヒーの焙煎」の記事で焙煎が浅いほど酸が強く感じられるとお話ししました。確かに極端に浅い焙煎は酸味が強調された風味になり、飲む方によっては違和感を感じるかもしれません。良質なスペシャルティコーヒーであれば中煎り~中深煎りでも、フルーティーで上質な酸は十分感じ取れますので是非お試しいただきたいと思います。
もう一つ注意していただきたいのは、コーヒーの保存中の風味劣化です。コーヒーの成分は水分と結合することで不快な酸っぱい酸を発生させるという性質を持つため、コーヒー豆を湿度の高い場所で長期間保存すると不快な酸を発生させることがあります。また、抽出後の液体の状態だとその進行は急激に早まり、数時間程度で不快な酸を発生させ始めますので、抽出後はできるだけ早く飲んでいただくのがおすすめです。(ちなみに抽出後直ちに冷却したアイスコーヒーは数日風味が維持されます。)
今回解説したコーヒーの酸味の特徴を理解していただければ、コーヒーの酸を過度に敬遠する必要は無いと思います。また、当店では「サワー」を有するコーヒー生豆は取り扱いませんし、焙煎後も不快な酸が発生しないよう適切に保管しておりますので安心してご利用ください。
良質な酸を持つコーヒーをいろいろ試してみると、コーヒーの美味しさに改めて気付かされるかもしれませんね。