ドリップコーヒーの科学 (その2)

前回の記事はこちら
ドリップコーヒーの科学 (その1)

前回はコーヒーの抽出に関する科学的要因を解説しましたので、それらを応用し、ドリップコーヒーを美味しく淹れるためのコツを紹介していきます。

【1.粉の準備】
ドリップに使用する粉は中挽き(グラニュー糖とザラメ糖の中間程度の粗さ)が適しています。湯の通りが良さと成分の溶け出しやすさのバランスに優れているためです。

コーヒーミルによっては雑味の原因となる微粉が多く混入することがあります。少し手間はかかりますが、茶こし等で微粉をふるい落としてから淹れるとよりクリアな風味のコーヒーが楽しめますので、一度お試しください。

【2.湯温】
湯温が高くなるほど、成分の抽出速度が速くなると前回お話しました。つまり、淹れる度に湯温が異なっていると味にブレが起こるということです。例えば、95℃で淹れると美味しくなるのが分かったなら、毎回95℃で淹れるよう心がけると良いでしょう。

といっても、毎回温度計で湯温を計るというのは手間がかかってしまいますので「移し替え」のテクニックを使うと良いと思います。

まず湯を沸騰させ、冷めたドリップポットに移し替えます。

ただそれだけです。移し替えをするだけで5℃程度は湯温が下がるので、そのままドリップを開始すれば毎回95℃前後で淹れることができるのです。もし90℃前後まで下げたいなら、さらにもう一度別のポットに移せばOKです。

【3.蒸らし】
蒸らしとは湯を注ぎ始める前に少量の湯で粉全体を湿らせ、放置する作業です。粉の内部にはコーヒーの美味しさの成分がたくさん詰まっており、それを粉表面へ浮き出させ、効率よく湯に移動させるため蒸らしを行います。蒸らしは30秒程度行うのが良いとされています。

【4.注ぎ】
注ぐ位置や、注ぐ湯の細さなど様々な注ぎのテクニックが語られていますが大切なことは、粉と湯の接触時間が長ければ多くの成分が移動し濃くなる、少なければ薄くなるという科学的要因です。

例えば「の」の字を書くように、というのはまんべんなく注ぐことで、ドリッパー内の粉と湯の接触時間を均等にするためと理解できますし、細く注ぐというのは、ゆっくり注いで接触時間を長くする事で成分を十分に引き出すためということが分かります。

ただし、接触時間は長すぎると逆に雑味が出やすくなってしまうので、抽出にかける時間は概ね3分間程度にとどめた方が良いです。よって、1杯分であれば細くじっくり注ぐのも良いですが、多目の杯数を淹れるのであれば太めに注ぎ、時間をかけ過ぎないように注意しましょう。

【5.撹拌】
あまり知られていないかもしれませんが、抽出直後のコーヒーの液体は上下で濃度が異なります。ドリップでは、前半に多くの成分が抽出され、後半は取り出される成分が薄くなっています。したがって抽出直後は、下部が濃く、上部は薄い状態になっているのです。淹れ終わった後は2、3回軽く撹拌させると、全体の風味が安定し、より美味しく味わえると思います。

抽出時の科学的要因を理解しておくと、好みの味が作り出しやすくなります。例えばもう少し味を濃くしたい場合は「湯温を高くする」「粉を細かく挽く」「抽出時間を長くする」のいずれかを試すとと良いですし、薄くしたい場合はその逆の方法が有効です。

今回解説した事項を思い出しながら、安定した風味が作れるよう練習してみてください。